「窓で暮らしが変わる」──日常を景色に変える設計の考え方

こんにちは、有村建築設計工房の有村です。
僕たちが家づくりをするうえで、特に大切にしているのが「窓」の設計です。

「えっ、窓ってそんなに大事なの?」と感じるかもしれません。
ですが、窓の位置や大きさ、形が変わるだけで、日常の見え方がまるで変わるんです。

今回は、そんな「窓」について、僕が実際の設計でどのように考えているか、そしてそれが暮らしにどんな影響を与えるのかをお伝えしたいと思います。

■ 窓は“景色”を切り取るフレーム

窓というと、風を通すもの、光を入れるものというイメージが一般的です。
もちろんその機能は大切です。でもそれだけじゃない。

僕が大事にしているのは、窓が「風景をどう見せるか」までデザインするものだということです。

たとえば、朝起きてカーテンを開けたとき、見えるのが隣の壁か、それとも空や緑か。
同じ部屋でも、その違いで気分がまったく変わってきます。

あるお宅では、南向きの窓をあえて細く、低く設けました。
その窓から見えるのは、庭の植栽の一部だけ。
でも、その限られた風景が、まるで一枚の絵のように暮らしの中に溶け込んでいました。

「いつもここを眺めるのが楽しみなんです」と、住まい手の方が嬉しそうに話してくれたとき、
窓が景色をつくるというのは、こういうことなんだと実感しました。

■ 「視線の先」にあるものを意識する

設計をする際、僕はよく「ここに立ったとき、どこが見えるか?」を想像します。
立つ位置、座る位置、寝転がる位置。
視線の高さや方向を細かく想像しながら、窓の配置を決めていきます。

たとえば、キッチンに立つときに見えるのが、

  • 家族の集まるリビング
  • 子どもが遊んでいる庭
  • 朝日が差し込む東の山並み

そんなふうに、視線の先に心が休まる風景があると、それだけで毎日の暮らしがちょっと豊かになると思いませんか?

日常というのは、ほんの些細な「見え方」の積み重ねでできています。
だからこそ、「どこに何が見えるか」は家づくりにおいてとても大切な視点なんです。

■ あえて“見せない”窓の使い方

一方で、僕は「すべてを見せる必要はない」とも思っています。

たとえば、通りに面した部屋。
そこに大きな窓を取ってしまうと、外の視線が気になって落ち着かない空間になります。

そういうときは、高さを変えたり、視線の通らない角度に窓を設けることで、
光や風を取り込みつつ、心地よい“こもり感”をつくることができます。

また、壁の高い位置に設けた窓から空だけが見える──そんな窓も、とても効果的です。
「今日は雲が多いな」「月がきれいだな」と、ふと空を見上げるきっかけになる。
そうした些細な変化が、毎日に豊かさを与えてくれます。

■ 鹿児島という土地に合った「窓」の工夫

僕たちの拠点である鹿児島は、自然に恵まれた素晴らしい土地です。
桜島の雄大な姿、深い緑、海から吹く風。
季節ごとに風景が大きく変化する場所だからこそ、その土地らしさを生かす窓の設計が重要になります。

たとえば、桜島が見える敷地では、建物の角度を調整して、リビングから火山を正面に眺められるようにしたこともあります。
一方で、西日が厳しい立地では、あえて西側には小さな窓だけを設け、
夕方の光がやわらかく回り込むよう、南側に深い軒と開口を組み合わせました。

その土地に合わせて窓を設計することで、自然と寄り添うような暮らしが実現できるのです。

■ 窓の設計=暮らしの設計

窓は単なる「開口部」ではありません。
窓は、光と風と景色をつなぐ、暮らしの中の重要な“装置”です。

  • 窓からの光で、時間の移ろいを感じる
  • 窓からの風で、季節の変化を肌で知る
  • 窓の外の景色で、心が整う

こうした感覚の積み重ねが、「ただ住むための箱」ではない、生きた住まいをつくっていくんだと思います。

そして、窓は使い方次第で「特別な何か」がなくても、日常そのものを美しく見せてくれる力を持っています。

■ まとめ:窓から始める豊かな住まい

  • 窓は暮らしの中の“景色”をつくる
  • 視線の先を意識して、心地よい風景を切り取る
  • あえて見せない工夫で、落ち着く空間に
  • 鹿児島の自然と調和する設計で、季節を楽しむ

僕たちの設計では、間取りや広さの話よりも前に、「どこに窓を開けるか」を一緒に考えることがあります。

なぜならそれが、暮らしの質を大きく左右するから。
あなたが家づくりを考えるときも、まずは「どんな風景を切り取りたいか」を想像してみてください。
それは、間取り以上に大事な問いになるかもしれません。

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