「選ばなかったプランにも意味がある」──設計の裏側にある“迷い”と“選択”の話

僕たちが家づくりをするとき、一つのプランが完成するまでにいくつもの案が生まれ、そして消えていきます。
その中で実際に建つのは、たったひとつの「選ばれたプラン」。

けれども、選ばれなかったプランにも、たしかな意味と役割があると僕は思っています。
今回は、あまり表に出ることのない「設計の裏側」についてお話ししたいと思います。

■ すべてのプランに、“理由”がある

設計の過程では、さまざまな視点からプランを検討します。
たとえば、

  • 朝の光をどう取り入れるか
  • キッチンとダイニングの距離感はどうか
  • 玄関の広さと収納のバランス
  • どの部屋に風が通るようにするか

それぞれの案には、そのときどきの「最善」が詰まっています。
土地の条件やご家族の暮らし方、ご要望をもとに複数の可能性を描き出し、比較検討していく。

このプロセスを経ることで、お客様自身が本当に大事にしたいことが少しずつはっきりしてくるのです。

■ 「迷った記録」が、本当の要望を見つけ出す

あるご夫婦との家づくりでは、最初にお出ししたプランに加え、3案ほど方向性の異なる案を提案しました。

  • 光を最大限取り込む大開口のリビング案
  • 回遊動線を重視した生活効率の良い案
  • 落ち着きを重視した中庭型の案

ご夫婦はどれも良いと言ってくれましたが、実は話し合う中で、「一番大切にしたいのは家族が集まる居場所の“落ち着き”」だという思いが見えてきました。
結果として、中庭案をベースにしたプランが採用されましたが、他の案を経たことで、何を優先したいのかを自然に整理できたのです。

選ばれなかった案も、家づくりの大切なステップでした。

■ 設計者の迷いは、住まい手への誠実さ

「最初から一発で完璧なプランを出す」というのは理想ですが、現実はそう簡単ではありません。
それぞれの案に悩み、考え、時には戻ってやり直す。その過程には、設計者としての“誠実さ”があります。

複数案を検討しながら、

  • 日々の動き方に合っているか
  • 季節の変化に対応できるか
  • 将来の変化に柔軟に対応できるか

一つ一つの可能性を丁寧に見つめることで、最終的に「納得のいく一案」にたどりつくことができます。

■ だからこそ、一緒に育てる設計が大切

設計を進めていくうえで、僕はいつも「一緒に育てていく感覚」を大切にしています。
お客様と話し合いながら、時には「この案はどう思いますか?」と問いかけたり、「実はこういう方法もあります」と別の視点を提示したり。

このやりとりの中で、住まい手が自分の価値観を再発見していくのです。
選ばなかった案があるからこそ、選んだ案への納得と安心が生まれる。
その積み重ねが、後悔のない家づくりにつながります。

■ まとめ:設計の過程は、暮らしを見つめ直す時間

  • 複数案を比較することで、家族が大事にしたいことが見えてくる
  • 選ばなかったプランにも、住まい手の価値観がにじんでいる
  • 設計の迷いと対話の中で、本当に納得できる住まいにたどりつく

「選ばれなかった案」にも意味がある。
それは、設計者のこだわりというより、住まい手の気持ちを丁寧にすくい取るための過程だと思っています。

これから家を建てたいと考えている方も、迷うことを恐れず、設計者と一緒に考え抜いてみてください。
その対話こそが、心から満足できる住まいへの近道になります。

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