
1月1日に発生した能登半島大地震を受けて多くの報道機関で既存住宅の耐震化の重要性が表立って報道されるようになりました。
今回は鹿児島県の既存住宅への耐震の取り組みなどについてまとめたいと思います。
鹿児島県で想定される地震規模と被害について
鹿児島県では東日本大震災、北海道胆振東部地震、熊本地震、県内においても北部地震やトカラ列島で続いている地震、錦江湾直下で起きた地震などの被害などを通して、
鹿児島県建築物耐震改修促進計画
を策定しています。
目的としては、被害を未然に防止するため,建築物の耐震化を推進することが緊急の課題となっており,効果的かつ効率的に建築物の耐震改修等を実施する。となっています。
その中で鹿児島県は以下のような被害想定を取りまとめられていました。
鹿児島湾直下や県西部直下など5カ所の地震で最大震度7が,また,甑島列島東方沖や南海トラフなど4カ所の地震で最大震度6強が想定されている。特に南海トラフ地震では,地震・津波により死者が2,000人,建物全壊が14,900棟と甚大な被害が想定されている。
あまり表には出てきていませんが、鹿児島県でも震度7クラスの地震が発生する可能性がある場所が5か所もあるという事です。
今回の能登半島大地震や熊本大地震クラスの地震が起きれば多くの家が被害を受けることとなるでしょう。
鹿児島の耐震化率
鹿児島県のHPに掲載されている耐震改修促進計画によると、総務省が平成30年に実施した住宅・土地統計調査を基にして出た結果を引用すると
県の住宅については,総数約709千戸のうち,約125千戸(約18%)の耐震性が不十分
耐震化率は約82%と推計している。
平成25年時点の約181千戸から,5年間で約56千戸減少しているものの,全国平均の耐震化率は約87%とされ,本県はこれを下回っている。
とされていました。
これはあくまで総務省に回答した人達の結果なので耐震化率もあくまで推計となっています。
推計とはあくまでも仮定と同じなので調査結果が正しいと仮定した場合の話なので鹿児島県下の耐震化率がもっと悪いということは想像に難くありません。
耐震基準の違いで倒壊する住宅たち
ここ数十年の中で多くの大地震に日本全体で見舞われてきました。
その中で倒壊した多くの建物はどの年代の耐震基準で設計されたかで大きく分かれています。
日本では長い歴史の中で幾度となく大地震の被害にあってきました。
そのたびに建物に関する構造の基準が見直されてきて現在の建築基準法として運用されています。
旧耐震基準
1981年5月までの基準を「旧耐震基準」と呼びます。
震度5(中規模)までの地震を想定しており、この地震で倒壊・損傷しないことが求められていました。
しかし、皆さんがご存じのように震度5以上の地震が幾度となく発生し見直されることとなりました。
新耐震基準
1981年6月以降の基準を「新耐震基準」と呼びます。
こちらは現在使われている法律のおおもとになっており今現在使われている基準です。
震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害は免れることを求められています。
ここで重要なのが旧耐震基準の時は震度5程度の地震で倒壊・損傷しないことになっていましたが、新耐震基準からは倒壊はしないが損傷は致し方なしとされている事です。
多くの家を建てる方は法律通りに建てたら壊れない家が建てられると考えている人も多くここが設計士との間で大きく乖離してる部分であり、住宅メーカーの営業など建築実務に直接携わらない人も勘違いしやすい部分でもあります。
2000年基準
旧・新耐震基準は住宅だけでなくすべての建物を網羅した基準になっていましたが、木造住宅に関しては「2000年基準」というものもあります。
1995年に起きた阪神淡路大震災を教訓に制定された基準で新耐震基準をベースにさらに土台や筋交いがはずれないように接合部に金物を取り付けることを義務化、耐力壁をバランスよく配置して安全性を高めた建物にすることなどが求められました。
ここまでで起きた震災で倒壊した建物の多くは「旧耐震基準」で建てられた建築物になります。
旧耐震基準で建てられた建物はもはや大地震では必ず倒壊すると言っても過言ではないと僕は考えています。
中には旧耐震基準の建物が残る事もありますが多くの場合はただの偶然です。
新耐震基準でも安心できない日本の法律
では、新耐震基準で建てた家なら安全かというとそうではありません。
熊本地震では多くの新耐震基準で建てられた家が被害にあっているからです。
まず前提として熊本地震では法律では想定されていなった震度7クラスの地震が直近で2回発生してしまい法律の想定を上回っていました。
地震は一度では終わりません。
大きい地震の後には必ず余震が発生します。
熊本地震の場合では本震が2回あったとされていますが震度7クラスの地震だと震度6クラスの余震が発生する確率はとても高くなります。
こうなればいくら新耐震基準と2000年基準で家を建てたとしても二度目の大地震は耐えることができません。
なぜなら新耐震基準は震度7クラスの地震で建物が損傷しても倒壊しなければいいという考えの元で設計をする基準だからです。
能登半島地震でも2000年基準にもかかわらず倒壊した建物が確認されており、その原因はここ数年で頻発していた震度6クラスの地震のダメージが残っていたからだと考えられています。
既存の家が旧耐震の時はどうしたらいいか?
建物が古ければ古い程、耐震基準は古く耐震性の低い建物だという事は分かって頂けたかと思います。
では、自分の家が旧耐震基準だった場合はどうしたらいいか、そもそも自分の家がいつ建ったのか知らない場合はどうしたらいいのかを紹介したいとい思います。
築年数の調べ方
築年数の調べ方として多くの場合は建物の確認済証という書類を見ることで判断できます。
確認済証の発行日が1981年6月以前なら旧耐震基準、以降なら新耐震基準となります。
そのような書類が見当たらない場合は不動産登記簿を持って地元の確認申請を取り扱う行政機関に行くと確認申請が出されていたか、いつ頃出されているかの記録を確認することができます。
鹿児島県の確認申請の記録が見れる行政機関
・鹿児島市→鹿児島市役所 建築指導課
・薩摩川内市→薩摩川内市市役所 建築住宅課 建築指導グループ
・霧島市→霧島市役所 建築指導課建築指導グループ
・鹿屋市→鹿屋市役所 建築住宅課建築指導室
・上記以外の市町村→各地域振興局の管轄エリアごとの建築課
地域振興局の所管エリア → リンク
確認申請と完了検査とは
確認申請とは建てる建物が建築基準法、その他関連する法律を守っているか行政機関に申請して確認をしてもらう事を言います。
これに合格すると確認済証が発行され建築が可能となります。
完了検査とは確認済証が発行された申請の通りに建物が作られたか完成後検査をすることを言い、合格すると完了検査済証が発行されます。
通常確認済証と完了検査済証の二つを持って当時の法律に合った建物だという事が分かります。
完了検査済証のみが残っていれば確認申請も出されていたことが分かるので専門家に年代をさかのぼってもらい建物の年代特定ができます。
確認申請の痕跡がない場合
古い建物だと確認済証が無いことが多くあり、そもそも確認申請が出されていないなんてこともあります。
まず、確認申請が出ていない場合は不動産登記簿を取得していつ建物が登記を確認します。
登記された日付が1981年6月の一年程度後だと新耐震基準の可能性があります。
あとは、市役所の固定資産税を取り扱う部署にいつ頃から今住んでいる建物の固定資産税が発生しているのかを確認すると完成時に近い年代の記録を取る事が出来ます。
鹿児島県木造住宅耐震診断員の診断を受ける
年代の分からない古い家に住んでいる、旧耐震基準の家に住んでいる、新耐震基準の家だけど強度が心配、これから中古の家を買おうと思っているという方は木造住宅耐震診断員の診断を受けることをおススメします。
こちらは古い木造の建物を診断して今の2000年基準に対してどの程度耐震性があるのかを調査し、必要があれば耐震改修設計(耐震性を今の基準にする設計)をしてもらえます。
特に鹿児島県の木造住宅耐震技術講習会を受講した診断員の診断を受けると各自治体が出している補助金を活用して自宅をより強い強度にすることができます。
今回は鹿児島県の耐震についてまとめさせていただきました。
僕も今回調べて鹿児島県でも震度7クラスの地震が発生する可能性がある場所が5か所もある事に驚きましたし、もっと公表されるべきだと感じました。
それから、古い家の耐震の補強についてもお話しさせて頂きましたが耐震改修はそれなりに費用が掛かりますので震度7クラスの地震を耐えれる耐震等級3まで補強するのは現実的ではないと思います。
しかし、旧耐震基準のままでは震度5以上の地震が来ると倒壊してしまう事は分かっています。震度7の地震を一度耐えてさえくれれば命は助かる事はできます。
多くの方が大地震の時はそのように亡くなっています。
ご自身の命を守る為、家族の命を守る為にも最低限の耐震改修をぜひおこなって頂きたいと思います。
有村建築設計工房では木構造補強設計もおこなっています。
耐震に不安がある方や新耐震以前に建った家は強度が著しく足りていないことが多くありますのでぜひご相談ください。
ご連絡お待ちしております!